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Monster 3

「おい、起きろゾロ。」

そう、ゆさゆさと揺さぶられて、ぼんやりと目を開けた。
ゾロの暗闇をも見通すようになった目はサンジの顔をしっかりと捉えたが、部屋の中は闇に包まれたままだ。

「・・・・・まだ暗ぇじゃねぇか・・・」

文句を言うと笑われた。

「お前は、ホント。モンスターとかそういうのとは無縁の生活をしてたんだな。
夜になったから起こしたんだ。それに、もう一日以上寝てるんだ、腹が減っただろう?」

と言われ、食堂に連れて行かれるついでに、
サンジの正体だと言う、ヴァンパイアについて少し教えられた。

「ヴァンパイアは日の光に弱い。特に朝日なんか浴びてみろ、灰になって滅びちまう。
これってばかなりの常識。OK?」

「・・あぁ・・いわれてみれば聞いた事がある。
だから、寝室の窓にはすべて暗幕が掛かってたんだな。」

ヴァンパイアとは、いわば『死者』 死者ゆえに、寿命と老化がないと言うことらしい。
ヴァンパイアが「不死」といわれる所以は、そこから来ている。

一方、狼男などのライカンスロープも不死だといわれるが、こちらは命を極限まで強力にした化け物であり。
死ににくいというだけで、事実としてはちゃんと殺せば死ぬし老化もする、寿命もある。
ただ、どんな傷を受けても、すさまじい再生能力で治すし、
狼男になってからのすさまじい食欲や睡眠欲はそれに基づく。
性欲も、優秀な子供をばら撒くための、一つの強い固体として当然の欲求だ。

狼男の力の源とヴァンパイアの力の源は根本が違う。
難しい原理は省くが、簡単に言えばプラスとマイナスの関係のようなもの。
生身でヴァンパイアを傷つけることが出来るのは、その対極に位置する狼男だけだとサンジは言った。

「ふうん。」

それらの説明を聞きながら、ゾロは気もそぞろというような返事ばかりを返した。
昨夜とは違い聞いていないわけではなかったが、サンジが次々とテーブルに並べる料理の数々にどうしても視線が移ってしまうからだ。
待ちきれなくて、思わずつまみ食いをしてしまったが、やはり美味い。

「ヴァンパイアってのは、飯を作るのも上手ぇのか?」

「はは・・それは、俺個人の趣味。・・・美味ぇ?」

「美味ぇ。」

ぽつりと返すと、やたらと嬉しそうに笑った。
どうぞと言われて、また凄まじい勢いで食べ始める。
肉を食えば肉汁が口の中であふれるほどで、サラダなどはどれも甘く感じられた。

サンジの料理は、今まで体に足りなかった栄養分が、全身に行き渡っていくような料理だった。
力がみなぎっていくような気がする。

「俺は人間だったころは海のコックだった。」

ふと、遠くを見るような目で、サンジがポツリと漏らした。

「海?ここはかなりの内陸の部分だろ?随分大掛かりな引越しをしたもんだな。」

「まぁな。太陽の光を反射してきらきらしてる海が何よりも好きだったんだけどよ
・・・もう、見れなくなっちまった。」

ウッカリしてると、滅びちまうからな・・・と、次々と皿を空にしてゆくゾロの食欲を見守りながら小さく笑った。
ヴァンパイアは日の光に弱い、と言うのと同意語で、海や川なんかにも弱いらしい。

ふと、ゾロは自分ばかり食べていて、サンジが一切食事に手をつけていないことに気がついた。
そういえば、昨晩も自分ばかりでサンジは何も食べていなかったことを思い出す。

「お前は食わなくても良いのか?」

「言っただろ?ヴァンパイアとは死者だ。死者は物を食わない。」

「でもよ、ヴァンパイアってのぁ吸血鬼って言うくらいだし、血を吸ったりするんじゃねぇのか?
他にもトマトジュースとかワインとかも飲むって聞いたぞ?」

「あぁ、アレは半分本当で半分は大嘘だ。結論から言えば、俺らは血を吸う必要もねぇ。
ま、魔力の足しにはなるから、戦争をしてる奴らにとっちゃ必需品ってのはあるが、
のんびり暮らしてるだけなら必要はねぇ。
それに、トマトジュースって、そりゃぁどこのホラだよ。
ま、美味いからな、生前は好きだったぜ?トマトジュース。」

今目の前で動きしゃべっているのに、『生前』とか言う言葉を使われると妙な気分になった。
目の前にあるサラダの中に彩りよく添えられているトマトを口に入れるのに少し戸惑う。
どうした?と首を傾げられたので、慌てて食いつき租借したが、
美味いと感じる分だけ、サンジを哀れに思った。
こんなに美味い料理を生み出せる手を持っているのに、サンジ自身は物を食えないと言うのは不条理すぎる。

「・・・まぁ、トマトのことはいいとしてよ。
なるほど、人間の血は力の源だったのか・・・」

「・・・・・・・それだけじゃねぇけどな。」

「なに?」

「趣向品の意味合いもあるんだよ・・・クソくだらねぇけどな。」

「ってことは、血を吸う必要もねぇのに、吸ってる奴らもいるってことか?」

「そうなるな。ほら・・・俺らは死人ゆえに体温をもたねぇだろ?」

そっと手に触れられると、ひやりと冷たい。
昨晩、寒いといって懐に擦り寄ってきた体を思い出した。

「別にそれで滅びたりすることはねぇが、生きてる人間の熱を懐かしく思うときもある。
それを強く感じるのが、誰かの温かな血を浴びることらしい。」

「お前もそうなのか?」

「そりゃ・・・寒いより、あたたけぇほうが良いが。」

サンジは席を立って、食べているゾロの後ろから抱きつき、首筋の毛皮に顔を埋めて心地よさそうにぐりぐりとやった。

「熱を感じたいだけなら、こうしてるだけでも感じられる。
それに、お前は今ライカンスロープになったおかげで、いつもよりも体温が高くなってるはずだから、こうしているだけであったけぇ・・・・。
それに、心臓の音も、力強く鳴ってやがる・・・。」

なんだか、サンジが触れた部分を中心として、更に体温が上がっているような気がした。
サンジとしては、ペットを抱きしめている感覚なのだろうが、
生まれて初めてこの男に対して「美しい」と認識したゾロとしては気が気ではない。
勃起したらどうしてくれんだこの野郎、と口の中でもぞもぞつぶやいた。

「あー・・・・・そういえばよ。俺に頼みてぇことってなんだ。」

「お?すげぇ、覚えてたのか。」

「・・・テメェ。」

「はははは、冗談だ。
いや、単純に昼間の間だけ受付もどきをして欲しいってわけだ。主に人間の・・・な。

ライカンスロープが押しかけてくる場合は、向こうも力が出せる夜に来るから問題ねぇんだが。
ヴァンパイアは日の光に弱いって噂が広まりすぎてるから、人間の場合は昼間に押しかけて来る。
ま、それでも問題ねぇと言えば問題ねぇんだけど、さすがに寝てる最中に押しかけられるとムカついてなぁ・・・ついマジで殺しかねねぇもんだから、
お前にそーっと優しくぶん殴ってお取引をお願いできネェかなと。」

「・・・人間でもお前を倒しに来るヤツがいるのか。」

「そりゃぁいるさ。ヴァンパイアなんて悪の代名詞なうえに、有名だからよ、
倒せば名が売れると思ってるんじゃねぇの?」

何時の世にも物事の真実を確かめようともせず、
表面だけしか見れないものもいる、とサンジはこともなげに言った。

「ふん・・・その馬鹿どもは俺がぶん殴っても感染はしねぇのか?」

「あぁ、それは大丈夫。俺のゾロはちゃーんと予防接種してますからね〜v」

「だから犬扱いするんじゃねぇ!!!!」

テーブルをガンと叩くと、予想以上に皿や器が跳ね上がり、ゾロはあわててそれらの器を押さえた。
そろりと背後のサンジの方を見ると、
彼はしばらく肩を震わせていたかと思えば、突如身体を句の字に折り曲げ堪えきれないようにして爆笑した。








それからのサンジとの生活は、今までのゾロの生活と比べれば、驚くほど緩やかなものだった。

自分の仕事はこの城にやってくる人間を追い返すことだが、殺す必要はなく、
適当に殴って気絶した人間に、夜になって起きてきたサンジがなにやらまじないをかければ、素直に山を降りて行った。
まじないと言うよりも、暗示みたいなものなのだろうか。
ゾロ以外のライカンスロープが来る気配もない。

そして、それ以外の時間は、サンジの作った食事を食べ、思うままトレーニングをし、
想像以上に居心地の良い城の庭で昼寝をし、くだらない話をしては笑いあった。

人間の姿かたちをとっていた頃より、狼男の姿をしているほうが穏やかな生活を送っていると言うのも奇妙な話ではあるが、
それでもゾロとしては不満はなかった。
この毛皮と高い体温は、凍えるサンジを暖めてやることが出来る。
この一目で恋に落ちた、綺麗な男に触れることが出来るのなら、どんな姿でもかまわなかった。



今夜も、ゾロはいつものようにサンジの椅子代わりになっている。

昼間にめいっぱい太陽の元で昼寝をしたので、その毛皮から太陽の匂いがすると言って、サンジはことさら機嫌がいい。
胡坐を組んで、その間にサンジが座り、なにやら小難しい本を読んでいる。
覗き込めばその内容にも目は通せたが、それよりもうなじの白さや、髪から香る匂いを嗅いだりする方に忙しく。
時に金髪の間から覗く耳に舌を這わせた。

一方。
サンジはゾロの長く伸びた髭に首筋をくすぐられ、時折困ったような表情とともに首を竦め、
耳を舐められた時は、びくりと体を震わせた後、軽く唇を噛んで視線をおろおろと彷徨わせていたが、
最後には目を細めて小さく唇をとがらせるだけで何も言わずに本に視線を戻す。
死者の肌に赤みはささないが、その表情から見て、明らかにサンジが恥ずかしがっているのがわかった。

かわいらしい反応に胸を衝かれながら、
きっとこいつのことだ、もし、人間だったらもっとかわいいピンク色になるんだろうな、と思い
何も言わないことに甘えて、ゾロはサンジを思うままに愛でた。

金髪をなで、耳元で「サンジ」と呟く。
そこで、とうとうサンジは途中から見てはいても内容が頭に入らなくなったらしい本を閉じて。
馬鹿野郎っという短い一言とともにぎゅうと抱きしめられた。

抱きしめたサンジの背中を撫でながら、
あぁ・・たまらなく幸せだ、と強く思った。

しかも、自分だけでなくサンジも・・恐らく自分のことを好いているらしいことがしぐさで判る。
このサンジと言う男は、態度で嘘をつくことが出来ないということをこの数日間の間に知った。
これが幸せでなくてなんと呼べばいいのか。


しかし、ちらりと・・・ゾロが闇夜を見上げると、
闇の中に少しだけ欠けた月がぽっこりと浮かんでいた。
今は薬のおかげか、それとも欠けている為なのか、何も感じなかったが。
また満月になってしまった時、あの衝動が来るのだろうかと思う。

もし、今あの衝動が体中をめぐったら、確実にこの綺麗な体を犯してしまうのではないかという予感がするのだ。

確かにサンジは華奢な体つきの割には確かに強いことを、ちょっとした喧嘩の際にその身で知ったし、
伝説の通り、ヴァンパイアは、夜更に力が増すことも知った。

しかしそれでも、己の牙となり爪となった刀達は、確実にサンジを傷つける。

次の満月の時に自分はどうなるのか、と既にサンジには聞いている。
サンジからの答えは、心配ない・・・とそれだけであったが、
それでも予感がするのだ。
ただ自分の意思に沿わない衝動ならば押さえ込む自信はある。
しかし・・・

本当に心の底から欲しいもの・・・
サンジのすべてを抱きたいという衝動が、満月が満ちるのとともに急激に湧き上がってきたならば・・・。

正直・・・それに抗える気がしない。


しばらくじゃれあった後。
サンジはうっとりと目を細めて、そのまま安心した笑みを浮かべて眠ってしまった。
さらさらした髪をなでながら、ここは朝になったら日が当たっちまうかもしれねぇ・・と思い
そっと抱きかかえて、寝室まで運んだ。

初めて会った夜から、ゾロはサンジの冷えた体を温めるように、
その体に触れ、いとおしみ、抱きしめながら眠る・・・。


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