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The previous night
その日の騒々しい夕食が終わった後に。 「サンジ」と。 珍しく真顔の船長が呼ぶものだから。 は、と気の抜けた顔でしか振り向くことができなかった。 「サンジ。おれ、明日は絶対ェ、つまみ喰いしねェ」 堂々と漢らしく宣言されたものの、その内容を理解できても苦笑いしか浮かばなくて。 「ああ。せいぜい頑張ってくれ」 そう返すと、至極まじめな顔のまま頷かれた。 「おう。絶対だ」 いい夜だ。 夕食の後、ナミさんにはオレンジティー、ロビンちゃんにはコーヒーを。 「サンジくん」 「ん?なんだい、ナミさん」 「明日ケーキ焼くんでしょ、すごく楽しみv」 「ははっ、期待しといて」 「ごちそうの準備、何か手伝おうか?」 「気遣ってくれるナミさんも素敵だv でも大丈夫だよ。航海士が優秀なおかげで、こないだの島でたっぷり食材補充できたから」 いつもは軽くかわしてしまうナミさんの。 「当たり前じゃない、誰が航海士やってると思ってんの」 本気で照れる顔が見れただけで。 いい夜だ。 ウソップから洗い物をしてくれるという申し出。 素直に任せてシンクから離れると、チョッパーが指圧をするので横になれという。 用意された毛布を抱え込んでうつぶせに寝ると、背中に硬くて心地よいひづめの感触。 「相変わらずすげェ凝ってるぞ、サンジ」 「んー・・・」 「特に、首んとこから肩胛骨に沿ってががちがちだ」 「・・・自分じゃ、わかんねェよ・・・」 「肩凝りとかいうレベルじゃないよ、これは」 チョッパーの呟きを聞きつけたウソップが言う。 「いやいやチョッパー、案外それ肩凝りじゃねェかもしれねェぞ?」 「・・・え?」 「実はサンジはグルマユ族っていう天使の末裔でな?きっともうすぐそこから翼が生えてくんだよ」 「えええええええええッッッッッ!!!!???」 どう聞いても嘘だろ。 なんで真に受けるんだ青っ鼻。 てか、グルマユ族って何だこら長っ鼻。 いい夜だ。 ようやっと明日の朝食の仕込みが終わった。 明かりを落として、ラウンジのドアを後ろ手に閉める。 薄くぼんやりとした月を眺め、暗い海を眺め、たばこを取り出す。 デッキに寄りかかって火をつけようとすると。 手すりからするすると生えてきた白い手が、風から火を守るようにそっと。 その、包まれた火にたばこを近づけて、そのまま肺の奥まで煙を入れて。 一息吐き出して見張り台を振り仰ぐ。 白い手の持ち主は、優しい。 押しつけがましくない気配りで、いつも。 「おやすみ、ロビンちゃん」 星も見えない夜空に向かって声を投げると、柔らかな声が。 「・・・おやすみなさい、コックさん」 その声に背中をふわりと撫でられた気がした。 いい夜だ。 格納庫のドアをあける前に、アイツ多分寝てるだろうな、と思う。 あけてみたらまさにそのとおりで。 そんなに待たせたつもりはなかったんだがな。 まあもっとも、コイツはすることなきゃ寝ちまうんだけどよ。 それでも毛布に半分のスペースがあけてあることに、自然に頬が緩む。 もちろん、遠慮なくそこに体を滑り込ませる。まだ、夜は寒いくらいの季節。 ・・・こういうとこは可愛いんだけどよ。 こんな腹巻きヤローに可愛いなんて、オレも大分末期だけどな。 片手で腹巻きヤローの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。 「よくできました」の意味で。 いい夜だ。 「・・・んあ?」 「おお、起きるとは思わなかった」 「・・・てめェ、来たんなら起こせよ・・・」 なんだそのむにゃむにゃ声は。赤ん坊か。 「寝てりゃいいじゃねェか」 「・・・もったいねェ」 「なにが」 返事の前に、抱え込まれた。 「オレがてめェといられる時間なんざ夜しかねェんだ。・・・さわる時間が減るだろ」 「アホか」 「うっせ。・・・こっち向け、ベルト外しづれェ」 「・・・ワガママなマリモちゃんだなぁおい・・・てかもう始めんのかよ!」 「・・・おい」 「・・・あ?」 「今・・・何時ぐれェだ?」 「あ?・・・あー、多分12時過ぎたぐれェじゃね・・・?」 答えると、体に巻き付いた腕に、わずかに力がこもって。 「・・・てこたぁ・・・誕生日になったってことか、てめェの」 「ああ?・・・ああ、そうだ、な・・・」 「・・・・・。」 「起きたら、忙しいなぁ・・・。夜は大宴会決定だもんなー・・・」 「・・・・・。」 「ナミさんに、ケーキ楽しみィvって言われちまったんだ。気合い入るぜェ」 「・・・おまえの」 「ん?」 「おまえの誕生日なのに、おまえがいつも一番忙しいんだよな・・・」 オレの背中に顔を押しつけたまま。 ゾロの声が、背中から直に骨を伝わって、体じゅうに響き、細胞の隅々を揺らすようで。 オレは、祈るように、呟いた。 「どんなに忙しくたって構わねェよ。・・・喰ってくれるのがおまえたちなら」 そうだ。 それがどんな日でも。 忙しい日でも、忙しくない日でも。 特別な日でも、そうじゃない日でも。 食べてくれるのが、この船のみんななら。 オレは。 オレはそれだけで。 この海で、生きている理由が、ある。 この世に、産まれてきた意味が、ある。 いい夜だ。 夢を夢と笑わないヤツらに出会えて。 ともに笑って。 奇跡の海を追いかけて。 ともに泣いて。 世界一の大剣豪予定の筋肉マリモに懐かれて。 ともに歩を進めていける。 いい夜だ。 「・・・なんだよ。・・・ドコさわってんだよてめェ。今出したばっかりだろが」 「もっかいヤる」 「はァ!? なに勝手なこと言ってんだ」 「ヤる。今夜、てめェが主役の宴会やるんじゃ、オレがおまえを独り占めできんのは今だけだ」 こんな言葉に胸が痛くなってしまうくらい。 いい夜だ。 |