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この愛する大地の上で 4




アラバスタにつくと、なぜかイガラムがじきじきに俺を出迎えてくれたことに驚いた。
というか、あんた今忙しいんじゃないのか?と、思わず聞きたくなる。

俺なんかにかまっている暇なんてないと思うのだが、さらに驚くべきことに、
いきなり、外交に出ているビビの警護を頼む、と言うのだ。


・・・・・・おいおい。

正直、呆れ顔でツッコミかけた。
まさか、俺が、元反乱軍のリーダだってこと忘れてるとか言わないだろうな。

だが、反論を言う前に、さっさと兵士の衣装を渡されて(しかもこれ、上位の物じゃねぇか?)
追い出された。

後はまぁ・・・・・・言われるままに、ビビの元へ行き・・・・・・。

バカみたいな話や、ダンスは楽しかったが。
少し、それが辛かった。

子供の頃と同じような顔で懐いてくるビビ。
可愛くて、勝気で、泣き虫な王女。

だが、俺たちはもう子供じゃない。
ダンスの際に触れた、腰の細さ。明らかな身長差。

あぁ。確かにあれから何年もの年月を経てしまったのだなぁと。
切なく思った。




















ビビは無言で俺の前を歩いている。
多分あれはジング国の三男だったと思うが、あれに捕まって以来、
ビビはいつもの柔らかな雰囲気をどこかへやってしまっていた。

いつも心配性で、一途なところが眩しいビビ。
なぁ、にあわねぇよ。お前のそんな顔。
凍りついた笑顔なんてさ。



「ビビ。」

あまりにその後姿が痛々しく見えて。
思わず俺は声をかけた。

ビビは、それでやっと緊張を解いたかのように、歩調を緩め振り返ったが。
その表情は、まだ硬い。


「ビ・・・・・・」

「リーダー。」

もう一度その名を呼ぼうとして、遮られた。
ビビは、無意識になのか、こくりと喉を鳴らしてから言う。

「ごめんなさい、リーダー。
嫌な思い・・・・・・したでしょ。」

「そんなことはない。なぜ、お前が謝る。」

あんな中傷めいたことは、覚悟の上だった。
それよりも、お前のほうが傷ついた顔をしているじゃないか。
・・・・・・その方が俺には堪える。

「やはり、俺は来ない方がよかったか?」

その方がお前は心安らかでいられただろうか。

だが、ビビは
「そんなことない・・・・・・!!」
と、思わずといったように大声を出しかけて、慌てて言葉を飲み込んだ。

「そんなことはないわ。リーダーが来てくれて・・・驚いたけど。嬉しかった。」

そう、ビビは小さく微笑んだ。







そうこう言っているうちに、ビビのために用意された部屋に着いた。

一応護衛としてここに派遣されてきたわけだし、
てっきり部屋の入り口付近で待機しているのかと思ったのだが。

なんと、ビビは、俺の手をとってぐいぐいと部屋の中に引きずり込もうとする。

「お、おい、ビビ。」

「いいのよ、リーダー。
どうせ、一人でこの広い部屋にいたって退屈なだけだわ。
お話し相手くらい付き合ってよ。

お父様達は、まだ引き上げてはこないだろうし。
ね?いいでしょう?」

子供のような顔で強請るビビを見ていると、俺もどうにも甘くなる。
仮の部屋とはいえ、男を入れるとはどういうことかとも思うが、
まぁ、良しとした。

なんせ護衛するにも、対象が目に見えていたほうが何かとやりやすいし、と。
このときは確かにそう考えていた。



その広い部屋の中に入って、俺はまず部屋の点検から始めた。
内乱後の不安定な時期と言うのは、一番他国からの暗殺に気をつけなければいけない。
王位継承権を持つ唯一の存在、ビビを殺すことが出来れば、それだけでアラバスタ王国は崩壊するからだ。
部屋を隅々まで調べ、逃げ道を確認する。

その間に、ビビは備え付けのポットで紅茶を立てていた。
本来、こういうことをするのはメイドであって、
王女とあろうもの出来てくるまでじっと待っているものだとは思うのだが、
わが国の王女は、さっさか自分でやってしまうらしい。
まぁ、たしかに、俺的にはその方が好ましいと言えば好ましいのだが。

ビビは、点検を終えた俺に座る用に促し、目の前のテーブルに紅茶を置いた。

「リーダー。相談に乗ってくれる?」

「なんだ?」

自分の前にも紅茶の入ったカップを置いて。
ビビは何事も無い、ただの世話話をするような雰囲気で俺に言った。

「私は、・・・・・・どんな人間を、夫として迎えるべきだと思う?」

一瞬、耳が聞く事を拒否した。

「・・・・・・なん、だって?」

愚かな話だ。
せっかく耳のほうで聞くことを拒否したのだというのに、
俺は聞き返すという愚挙を犯した。

「どんな相手を夫にすれば、アラバスタはより豊かになれると思う?」

すぅっと、血の気が引いてゆく。
ビビの口元からこぼれる言葉を、信じられない思いで理解した。

「豊かな国の王族か、最低でも有力貴族の出で、
出来ればこの国を愛してくれる人・・・・・・と思ったんだけど。
・・・・・・なかなか居ないわよね。
だから、何を一番に考えるべきなのかなって。
やっぱり、国の財力を一番に考えるべきなのかしら・・・・・・。」


ユバで男たちが囁いていた噂話がよみがえる。

――これで、お姫さんが、どっかの金持ちの王子様と結婚してくれれば楽なのにな――

ふざけるな、と思う。

人々に知られていないこととはいえ。
この国のことを何よりも案じ、命を懸けてまでも救おうとした王女に、
まだ尚重荷を背負わせろというのか。

実は、あれから親父に聞いていた。
ビビがこの数年一体何をしていたのかを。
・・・・・・正直、なんて馬鹿なことをと思った。

そして同時に誇らしく思った。


だから、ビビには微笑んでいてほしいのだ。
真実を知るがゆえに、きっと何度も絶望の涙を流したはずだから。
誰よりも、この国の中で幸せになってほしいのだ。

それなのに、この馬鹿な王女は、また自ら自分を犠牲にしようというのか!




「・・・っ!!コーザ!!い、痛い!!」

ビビの悲鳴で我に返った。
いつの間にか、ビビの両腕を掴み、ソファに押し倒していた。
その顔が泣きそうに歪んでいる。

ビビの泣き顔など見たくはない。だが、離してやる気はなかった。

「本気で言っているのかお前は。」

「・・・・・・ど、どういうこと??」

「お前は、政略結婚なんてくだらないことを本気で考えているのか!」

その瞬間、ビビの瞳に炎が宿った。
厳しい表情になり、凛とした態度で言い放つ。

「下らないだなんて言わないで!!今のアラバスタには必要なことだわ!」

「必要でも、お前一人で被るべき事じゃない!」

「被るべき事なのよ!私は次期女王よ!
確かに、まだ半人前以下だけど。
王族として生まれた以上、自分の使い方は心得てるわ!」

「ビビ!!!」

我ながら情けない声だった。
まるで、悲鳴だった。

その声音に、ビビも驚いたのか、瞳を見開いて俺を見ている。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・自分を、道具のように言うな。」

頼むから。お願いだから・・・・・・。

「俺は、ガキの頃。
王族の子供という道具を庇うために、この傷を負ったんじゃねぇ。」

助けてやりたいって思ったんだ。
この優しい娘が、怪我をするのを見るのは嫌だった。


「・・・・・・でも。」

俯きながら、小さく掠れた声でビビは言った。

「もう・・・・・・子供の頃とは違うじゃない。」

ビビも、泣いているのかと思った。
それほどの弱々しい声音だった。

「・・・そうだ。子供の頃とは違うな。」

そうだ。明らかに俺たちは変わってしまった。

「何も出来なかった子供の頃とは違う。
ただ、無邪気に信じていた頃とは違う。」

のろのろと顔を上げてきたビビの目をしかと見て、俺はきっぱりと言い放った。

「俺は、お前を抱くことが出来る。」

「!!!」

驚愕に目を見開き、さっとビビの顔に恐怖の色が広がる。



「わかっているのか、結婚と言う言葉の意味が。」

わかっているのか、その先にある、男女の営みが。

「わかっているわ。」

「いや、わかっていない。」

「わかっているわよ!大したことじゃないじゃない!!
今までの王族の女性は、皆こうして来た!」

「なら、俺に触れられただけで震える身体をどう説明する!!」

想像ではなく、実感として。
ビビは、わかっていない。

その細い身体は、普段の気の強いビビの意思とは裏腹に、
小刻みに震えていた。
王族でもなんでもない、ただの一人の少女の反応だった。

「ビビ。」

耳元で囁く。
ただそれだけのことで、ビビは可愛らしい反応をしめす。


「コ、コーザ。やめてぇっ。」

ああ、否定の言葉であったにしても、
なんと甘やかな声で俺の名を呼ぶのか。

どくどくと凄い勢いで血が全身を巡る音が聞こえる。


「わかるか?これが男の身体だ。」

そっと・・・唇で、ビビの胸元に触れた。

「・・・・・・っ。」

引きつったような呼吸音が聞こえる。
ぱっと、身体全体が赤みを帯びていくのがわかった。

ビビも、俺と同じく、激しく心音を高ぶらせている。


あぁ、俺はこんなにも。
ビビという娘・・・いや、女に恋焦がれているのだと思った。

好きという言葉だけでは言い表せない。
己の欲望でもって、めちゃめちゃにしてしまいたいという凶暴な思いも秘めたそれ。


「ビビ・・・。」

もう一度名をつぶやいて、腕の拘束を解き、顔を覗き込んだ。
すべらかな頬に手を添えると、大きな瞳が、涙に濡れているのがわかる。

相当怖がらせてしまったのだろう。

「すまない、ビビ。」

今度は、怖がらせないよう、ゆっくりと抱きしめた。
力を込めれば折れてしまいそうな華奢な身体だ。

緩い、ウェーブのついた髪を撫でながら俺は言った。


「ただ・・・お前には、幸せになってもらいたいんだ。」

俺がお前を幸せにすることなど、できはしないだろう。
だが、それでも、願うことは出来るはず。

「もう、自分を犠牲にするようなことはしないでくれ。
ただ、幸せそうな顔で笑っていてくれればそれで十分なんだ。」



どうか平和な国に、餓えのない国に・・・
そんな願いも、お前の幸福が前提で無ければ意味が無いんだ。



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