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この愛する大地の上で 2
あれからパーティがあり、愛想笑いを浮かべながら色々な人に挨拶をした。 数人からダンスの誘いを受けたが、そんな気分にはなれず、 なるべく相手の気分を害さないように断り。 今は、人通りの無い廊下で風にあたっていた。 人に酔ったのか、どうにも気分が悪かったのだ。 遠くで、楽しげなダンスの曲が奏でられている。 どうにも空しい気分が心に穴をあけ、風が通り抜けてゆく。 私は、手すりの上に腕を組み、そこに顔を埋めてしばらくじっとしていた。 「ビビ?」 聞き覚えのある声を聞いて、反射的に顔をあげた。 「コ、・・・・・・リーダー。」 半ば呆然とつぶやく。 彼は苦笑しながら身につけていたサングラスをはずし、こちらに近づいてくる所だった。 アラバスタの正式な軍服を(それも位の高い)身に着けた姿は、 とても男らしくて素敵で・・・・・・。 一瞬、夢かと思った。 「久しぶりだな。」 「どうしてここに?」 久しぶりに会った幼馴染は、 あの戦争の時に受けた傷など何も無かったような振る舞いでそこに居た。 つい先日まで側に居た海賊の仲間たちも、 おかしいくらいの回復力を持っていて、化け物などと称されていたが、 実は彼も同じ人種なのかもしれない。 彼は、思わず思い出し笑いをしそうになって口元を抑えた私を不思議そうに見つめ、 ここに居るわけを話してくれた。 「実は、ユバで大乱闘をしちまってな。」 なんでも、この人ときたら。 何が原因かは知らないけれど、 一人でユバに集まった若い人たちと大喧嘩をして勝ってしまったのだという。 もちろんその後、トトおじさんに頭ごなしに怒られて。 (それはそうだと思う、なんせ貴重な人手に怪我をさせてしまったわけだから。) そんなに、力が余っているのならば、軍隊にでも行って少し血の気を発散させて来い。 と、ユバから追い出され。 アラバスタについたとたん、事情を聞いたイガラムから、 どうせなら一番きつい護衛の仕事をさせてやろうと、ここへ送られたのだそうだ。 それで、着いたのは本当に今さっき。 でも、確かにここは各国の重要人物が集まる場所。暗殺や襲撃が後をたたない。 もちろん、その分兵の数は多いが。 万が一ここが戦場になった場合、それぞれの国の兵隊達は、 わが身を盾にして王族を守らなくてはいけない。 そういう意味では、確かに一番きつい場所だと言えなくも無かった。 「でも、イガラムも変ね。私が言うのもなんだけど。 力持ちの男の人が必要な仕事はもっと他にたくさんあったのよ? それに、私達の護衛って、確かに襲撃が会ったら大変だけど。それ以外は本当に暇だし。」 「まぁ、確かにそうなんだが。 俺にとっては、こうかっちりした軍服を着せられるほうが、気疲れする。」 イガラムの言ったことは嘘ではなかったと、小さくため息をついた彼を見て、 私は久しぶりに笑ってしまった。 「笑うなよ。」 と、彼は口をへの字にして、私の睨んだけれど。 私の笑い虫がさらに図に乗っただけ。 だって、その表情は、まるで嫌いなおかずを目の前に出された子供みたい。 と言うよりも、子供の頃トトおじさんの奥さんが持たせてくれたお弁当の中に、 ピーマンが入っていたのを見た時の表情をまったく一緒! びっくりするくらいぜんぜん変わっていなかった。 なんだかそれがすごく嬉しくて、ほんの少し涙が出た。 「うふふ。でも、似合うわリーダー。」 「まったく、泣くほど可笑しいかよ。」 「やだ、拗ねないで?」 「誰が拗ねるか!」 口ではそういいながら、彼の顔もだんだん笑顔になってきて。 二人でしばらく笑い合った。 先ほど感じた嫌な気分が、嘘のように晴れていくのが分かる。 子供の頃に感じていた幸福感、海賊の仲間達と共に味わった充実感が、 たったこれだけの会話の中に生まれていた。 ふと、悪戯心がぴょこりと顔を出す。 「ねぇ、リーダー。ダンスはできる??」 「はぁ??」 「あ、やっぱりできないんだ。ちょうど良いわ、私が教えてあげる!」 「お、おいおい。何でいきなりそんな話になるんだよ!」 「だってほら。」 私は、一人で居たときは憂鬱に聞こえたダンスミュージックが、 今はこの上ない美しい旋律となって聞こえる。 その曲の存在を視線で気づかせてあげた。 「ちょうど曲も変わったことだし。大丈夫よ、簡単なの教えてあげる!」 「待てッこら!いきなり抱きつくな!」 「何言ってるの、抱きつかないと踊れないでしょ?! はい、右手はここで、左手はこのあたりの位置で私と手をつなぐの。」 「おい!俺は、ダンスなんか覚える必要なんか無いし・・・・・・」 ぼそぼそ言い訳じみたことを言っているリーダーが可愛くて、 私はさらに調子に乗った。 「なによー。子供の頃は、お兄ちゃん風吹かせて良い事悪い事色々教えたくせに。 私の知ってる事は、別に教えてなんか貰いたくねーよとか言うつもりー??」 あ、なんだか今のはナミさんの言い方に似ていたかも。 「いや・・・・・・そういうわけじゃねぇけどよ。」 困惑にほんの少しだけ耳が赤くなってる。 「いいじゃない。こうやって時間も気にせずに一緒に居るなんて、子供の頃以来なのよ? せっかく偶然会えたんだもの、今回くらい私の遊びに付き合って?」 そういうと、彼はぐっと何かを飲み込んだしぐさをして。少しそっぽを向きながら。 「わかったよ。なら、ちゃんと教えろ。俺は中途半端が嫌いだ。」 私は、なんだか嬉しくて嬉しくて。 それならと、自分が知っている中でも 一番複雑なステップを教えてあげようと考えて、また笑った。 「すごーい!リーダー!もうほぼ完璧よ? やっぱり運動神経がいい人ってなんでもできるのね。」 どれぐらい凄いかって、私がちょっと意地悪をしてアドリブを入れてみても、 直ぐに付いてこられる程の生意気ッぷり。 最初は、モタモタよろよろだったのが、今はくるくるスムーズに回っていて。 なんだか、もう彼のリードで踊らされていると感じるくらい。 「本当に、今までダンスを踊ったこと無いの?」 なんだかちょっと信じられない。 「ねぇよ。」 口調はぶっきらぼうだったけれど、口元は笑ってた。 なんだかんだ言って楽しんでくれているみたい。 ちょうど曲の変わり目のときに、 そろそろ息も上がってきたので私は休憩を提案することにした。 「リーダーちょっとタイム!」 「お?なんだよ、もうギブアップか?最近の姫君は持久力がねぇな。 もっとしっかり教えてくれよ。」 「なによ!大勢の男の人と喧嘩して勝っちゃうような、 化け物みたいな体力している人と一緒にしないでください〜。」 「化け物ってのは何だ!失礼なやつだな!」 「きゃぁっ怒っちゃいや〜♪」 ふざけて抱きついたら、不意に彼の動きが止まった。 どうしたのか、と思って顔を見上げると、その視線は廊下の先を見ていて・・・・・・。 すぅ・・・・・・と、自分の表情が変わるのが分かった。 まるで、別の人格と入れ替わるような感覚。 私は、離しがたかった彼の手をゆっくりとはずして、廊下の先にたたずむ男に向き直った。 「広間においでにならなかったので、どこへいらしたのかと思えば。 このようなところにおいででしたか、ビビ姫。」 思ったとおりの、蛇が笑ったような表情をした男がそこに居る。 「ええ、ここは風が心地よかった物で。」 にこりと微笑んだ。何度も鏡の前で練習した、王族としての品位を持った笑み。 「しかし、ヒビ姫もお人が悪い。 私のダンスの誘いを受けて下さらなかったのに、 このようなところで部下相手にお戯れになっているとは。」 部下・・・・・・その一言に傷ついている自分が居た。 子供の頃は、確かにリーダーとか副リーダーとか呼ばれて、 子供ならではの階級があったけれど。それでも私たちは対等だった。 けれど、成長した今では、私たちが・・・・・・ではなく、周りが私達の間に溝を作る。 ちらりと私の斜め後ろに居る彼を見えがると、つまらなさそうな顔つきで男を見ていた。 そうよね。あの男はつまらない男だわ。 ・・・・・・私の夫には相応しくない。 国に金があっても、彼自身が私達の国を愛してくれるような人格には見えないから。 「それでは、カスト王子。私たちは失礼させていただきます。 少し疲れてしまったの。」 コーザを促してその男の脇をすり抜ける。 「ビビ姫。」 ねちっこい口調が私に絡みつく。 「その男性。貴女の国を騒がせた反乱軍のリーダーととてもよく似ておられますな。」 早いリズムを刻んでいたヒールの音がやむ。 「お気をつけなさい、ビビ姫。傷のついた男をそばに置くのは危険ですよ。」 ぎゅっと、こぶしに力を入れた。 彼の言う傷とは、私をかばってできた目の上の傷か・・・・・・それとも、反逆者としての汚名か。 「いいえ、危険なことなんてありませんわ。彼の傷は、幼い頃に私をかばってのもの。 昔と違って、彼の武術の腕は比類無きものに成長し。 人を護る為の勇気は昔となんら変わっておりません。 ですから、何の心配もありませんわ。」 と、私は嘯いた。 話はもう終わったと、また足を進めると。 すれ違いざまに、その男は薄い笑みを浮かべた。 私は振り向かなかった。だから、コーザがどんな表情だったのか分からない。 ただ、彼は何も言わなかったし。私も何も言わなかった。 ほら、こんなにも私達の間には溝がある・・・・・・。 あの男の言っていたことは正論なのだ。 確かに、私とコーザが一緒に居ると、周りからおかしな目で見られるだろう。 突拍子も無い噂が出て、そこからとんでもない騒動がおきかねない。 無邪気に一緒に居られた子供の頃とは違うのだ。 ここに居るのは、王女と、元反乱軍のリーダー。 ・・・・・・そして、男と女。 子供の頃に戻りたかった。 子供でさえあれば、何の憂いもなしに、彼の腕へ飛び込むことができたであろうに。 目の奥がつんとしたが、泣くことは許されない。 この優しい人は、きっと私の心を見抜いてしまうだろうから。 脳裏に、今朝見た母の写真が浮かぶ。 お母様・・・・・・お母様!貴女はなんて幸せな人。 私もね、この人と最初は大喧嘩をしたのよ。 もっとも、私は負けてしまったけれど。 お母様も私も、同じような状況で出会ったというのに。どうしてこうも違うのかしら。 ねぇ、お母様。 私・・・・・・出会って、喧嘩をして、仲直りをしてから・・・・・・ずっとずっとこの人が・・・・・・ コーザが好きだったのよ・・・・・・ |