ワンピース版 暴れん坊将軍 六
根古田屋襲撃事件。
それは、襲撃そのものはたいしたものではなかった、
と、ビビは言った。
コーザだけではない。
多くの猛者が、根古田屋には居るからである。
だから、それに関しては誰も心配しなかった。
……そして、事件から二日たった日のこと。
丁度、コブラ達が留守のときにそれは起きた。
いきなり、数人の同心やら岡引やらが怒鳴り込んできたのである。
特に目立つ無表情なその同心は。
他のものには目もくれぬように、ずかずかと入り込むと。
「コーザと言う男はいるか?」
と、一言告げた。
他の者たちが、不振気にコーザのほうを見る。
店の者たちを護るように、コーザが一歩前に出た。
「俺が、コーザだが。なにか?」
「そうか、ならば、我々と共に奉行所まで来てもらおう。」
「なに?」
いきなり複数の役人が入ってきて奉行所まで来いと言われれば誰もが戸惑う、
ビビは思わず割って入った。
「ちょっと待って下さい、親分さん。コーザが何か?」
「今回の襲撃事件の事で、捕まったこそ泥がコーザの手引きで屋敷に入ったと自白した。」
「なっ!!?」
店に居たもの全員が驚きの声を上げざわめく。
「そ、……そんなことはありません!
コーザは自分の部屋からすぐに私の元に駆けつけてくれたんです。
私を賊から護ってくれたんです!
それに、彼は生まれたときからずっとこの店によく尽くしてくれてます。
血がつながってはいないにしろ、
家族も同然のコーザがそんなことをするはずがありません!」
全員の気持ちを代弁するようにビビは訴えた。
今店の者を護るのは私の役目だと、必死で同心の目の前に立ちはだかる。
だが、その無表情な同心は、
冷めた目つきでビビを見下ろし、
「小娘は黙っていろ。」と、その頬に拳を打とうとした。
もちろん、ビビにそれに抗うことなどできない。
しかし、打たれる瞬間まで相手をにらみつけてやろうと、
ビビは腹に力を入れて、強いまなざしを向けた。
「待てよ!」
生意気な女には、体に言うことを聞かせる。
とでも言いたげな同心の腕を、強い握力で握り締めたのはコーザ。
ぎりっと、お互いの骨がきしむような音がしたかと思うと。
同心は、初めて表情らしいものを表に出し、にいっと口の端を上げた。
「……ほう?俺の邪魔をするか?」
「同心ってのは、無抵抗の女に手を上げるのかよ。
わかった。奉行所でもどこへでも連れて行け。
だがその代わりビビ…お嬢さんの手を離すんだ。」
「聞き分けのいいやつは嫌いじゃないな。
おい、縄を打て。」
「へぃ。」
部下は、本当に法の下に動く人間なのかと言いたくなるくらい
下品な笑みを浮かべ、
コーザを縄できつく縛ろうとした。
「そんなっ、まるで犯人みたいにあつかうだなんて酷いじゃないですか!」
其の姿を見るのがとても辛く、ビビは思わずコーザに縋り付いた。
「犯人みたいに?いいかお嬢さん。
盗賊の手引きをしたやつは、それだけでも十分に打ち首獄門だ。
みたいにじゃなくて、こいつは犯人も同然なんだよ。」
「酷い……コーザぁ!」
打ち首という言葉に、思わず震えた。
一体なぜ、こんな酷い事をコーザが言われなければならないのかわからなかった。
だが、コーザは縛られているにもかかわらず、優しい笑みを浮かべて言う。
「大丈夫です、お嬢さん。俺は、この店が大好きです。
俺が生まれて育った店ですから。
だから、俺がこの店をどうこうするなんて冗談にしてもたちが悪いですよ。
何かの間違いですから、すぐに帰ってこれます。」
「コーザ…。」
コーザが自分を安心させるために言っているということはわかっていたから、
ビビはコーザのために泣くまいと思った。
だが、最後に頬をなでる手があまりにも優しくて、
はらりと……どうしても、耐え切れずに涙がこぼれた。
コーザは少し困ったような顔をしてから、
こんなときでも、いつもの通りにビビの頭を撫でて……
そのまま、連れて行かれてしまった。
「おら、さっさと歩け!」
「うるせぇ、言われなくても歩ける。」
遠くでののしりあう声を聞きながら、
ビビは、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
話を聞き終わったあと、サンジはビビの顔を見た。
泣いているのだろうかと思ったからだ。
いくら事件当時の事を聞く必要があったとはいえ、女性を泣かせるのは嫌だった。
しかし、ビビはにこりと二人に微笑むと、
「それで、この包みなんですけど。」
と、手に持つ風呂敷をルフィに渡した。
「おお!それいい匂いするよな!」
「はい、御結びが入っています。私はコーザのために何もできないから、
せめて差し入れだけでもって思ったんですけど。
……無駄になってしまったから。
あの、ルフィさん、もしよろしければもらってくださいます?」
「俺がもらっていいのか??」
「はい。
あの……それじゃぁ、私、戻ります。お店の手伝いをしないと。
先ほどは、本当にありがとうございました。」
「おう!ビビ!またなー!」
「あっビビちゃん気をつけて帰ってね!」
傷心の少女を、一人で家に帰すのはあまりにも可哀想だったし、
サンジとしてはしっかりと家までエスコートしてやりたかった。
だが、今の彼女にそういった優しさは必要ないとも思った。
ビビに必要なのは、コーザの無事な姿だけだ。
今サンジがビビにしてやれることは恐らく……
「おい、ルフィ。まさかそれ食う気じゃねぇだろうな。」
「おう、つれぇけど我慢するぞ。これは、俺のじゃなくてコーザのだ。」
そういって、受け取った風呂敷包みをサンジに渡した。
サンジの役目は、無事にこれをコーザの元に届けてやることなのだろう。
「ビビはいいやつだ。コーザもいいやつだ。」
「ああ、見れば分かる。わからねぇ奴がクソなんだ。」
「俺は仲間を悲しませる奴をゆるさねぇ。」
「当たり前だ!ぜってぇ、尻尾捕まえてやるぜ!」
「じゃ、聞き込みは任せろ。」
「おう!頼んだ!」
ガツと、拳を当てあう。
恐らく、こいつに頼んでおけば……
いや、実際ルフィ自身に情報収集は無理だが、ルフィにはナミがいる。
彼女の頭脳を持ってすれば、たとえ世間の中に埋もれた情報でも、
必ず掘り出してくれるに違いない。
そして、ルフィの感。
サンジが何よりも期待しているのは、それだ。
一見あやふやで信じるに値していないかもしれないが、
ルフィの、その第6感ともいえるそれは、必ず当たる。
「ルフィのほうはもう問題ねぇだろ……さぁて、次は……と。」
サンジは、ビビから預かった風呂敷包みを抱きしめ、空を見上げた。
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