五
「とにかく聞き込みのために人数が必要なんだ。
面倒を押し付けてわりぃが……ルフィ、お前ん所の若いのを数人貸してくれ。」
城を抜け出して、まずサンジがやろうとしたことは、まず裏を取ることだった。
いわゆる、アリバイ探しという奴である。
ゾロを助けるために、め組みの連中を使うと言うのはお門違いな気がするが、
とにかく今は人手が必要なのだ。
「んーまぁ、別にかまわねぇけどな。」
「頼んだぜ!ほら、りんご飴買ってやるからよ。」
「おお!!サンジ任せろ!
お前の友達は俺の友達だ!」
りんご飴を握り締めて、声高らかに、ついでにやる気満々で拳を振り上げるルフィ。
め組は、本当にこいつが親分でいいのか?と、一瞬不安にもなるが。
やる時はちゃんとやる奴なので、まぁいいとする。
「あっビビじゃねぇか。」
れろれろとりんご飴を舐めつつ、ルフィは指を指した。
その先には、水色の髪をした一人の少女。
なにやら奉行所の門の前で、門番と言い合っているようだ。
「うお!カワイイコだなぁ〜〜♪知り合いか?」
「ナミの友達だ。だから俺とも友達なんだ!
おーい!ビビー!」
ルフィがそう声をかけた瞬間だった。
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる門番に、ビビは容赦なく突き飛ばされ、
地面に倒れこんだのだ。
持っていた風呂敷鼓が、その拍子に手から転げ落ちる。
「……!!」
「おめぇら!ビビに何しやがる!」
「麗しいお嬢さん!大丈夫ですか?!」
ルフィは、門番たちに牙を剥き。
サンジは、落とした風呂敷鼓を拾ってやり、手を貸して立たせてやる。
すると、ビビは一瞬ぽかんとした顔になって、慌ててルフィを止めた。
「待ってルフィさん。いいんです、私は大丈夫ですから。」
「よくねぇ!俺は、友達にひどい事する奴をゆるさねぇぞ!」
「だめです!こんな所で問題を起こしたらナミさんが悲しみます!」
悲鳴のような静止だった。
火事と喧嘩は江戸の華と言うが、流石に役人相手に問題を起こすのはまずい。
サンジとしても、ビビの思いが分かったので、ルフィの肩をつかんで止めさせる。
「ルフィ、今は我慢しとけ。爆発するならまた今度だ。
二人の美女を泣かすなんて俺がゆるさねぇ。」
「〜〜〜〜〜〜っ」
まだ納得がいかないらしいルフィを引きずり、
奉行所から少し離れた神社の境内で、改めてビビに向き合った。
「お怪我はありませんか?お嬢さん。
俺はサンジ。しがない遊び人ですがどうぞよろしく!」
今まで持ったままであった風呂敷包みを返しながら挨拶すると、
泣きそうだった少女の顔がやっとほころんできた。
「初めまして。私は根古田屋の娘で、ビビと申します。」
「ビビちゃんv いい名前だvvv
でも、根古田屋と言うと……。」
「……はい。お恥ずかしながら。」
彼女もまた、今回の事件の渦中にある人物であると言うことである。
「なぁ、ビビ。お前、なんであんなところに居たんだ?」
ようやく怒りが収まったのか、ルフィが口を開くと、
ビビは少し土のついた風呂敷包みを悲しそうに見て。
「私は……コーザに、差し入れがしたくて……。」
と、彼が捕らえられているであろう、牢屋敷の方向を見上げた。
「コーザが、あん中にいるのか。」
「はい、その筈です。
……でも、コーザの名前を出しただけで、
無理だ、出来ないの一点張りなんです。」
本来。
家族や親類などからの差し入れは、所定の手続きをすれば可能なはずである。
それなのに、問答無用で突っぱねられたというのだ。
「唯でさえ、今回のことは冤罪です!
南のお奉行様にそそのかされただなんて根も葉もない噂もあるし、
……いったい、何がどうしてしまったのか。」
冤罪だと、揺らぎの無い口調できっぱりという。
「コーザは、番頭のトトさんの子供で。私が小さいころからずっと一緒でした。」
「じゃぁ、ビビちゃんとは、幼馴染なんだ。」
「はい。だから、コーザがどんな人間か、私が一番良く知っています。
それなのに、役人の方々は勝手にコーザのことを悪い人間だって決め付けて!」
ビビは悔しそうに唇を噛み締め、掌に己の爪を食い込ませた。
サンジは、そんなビビにふと己の姿を重ね、
そして、やんわりとその拳に手を重ね合わせた。
可愛らしい女性の唇や掌に傷が出来てはいけないからと、
微笑みながら、手や顎の力を抜くようにと諭す。
「……ねぇ、ビビちゃん。
事件当日、それからコーザが連れて行かれたときのことを話しちゃくれないかな。」
なぜ?と、不思議そうな顔をするビビに、
「俺もその事件を調べてるんだ。
ビビちゃんの大切な人が、大変なことになっているように。
俺も、大切な奴が大変なことになってて……俺も、そいつの役に立ちたいから。」
そう、正直に告げた。
ビビは、恐らく不思議に思っただろう。
南の奉行を「大切な奴」と呼ぶこの男の正体とはなんだろうかと。
だが、ビビはそれに関しては何も言わず。
サンジの気持ちが伝わったのだろう、
しっかりとした口調で話し始めた。
事件があったのは、新月の夜。
これは、後から聞いた話だが、
一番初めに不穏な物音を聞いたコーザは、唐突に目を覚ましたのだそうだ。
頭の奥で何かが危険信号を鳴らしていた。
布団を跳ね除けて、部屋の隅においてあった木刀をつかみ、そのまま部屋を飛び出してゆく。
そして、2階から1階に降りた瞬間、
ひそかに聞こえた複数の足音に、自分の予感は的中したのだと悟った。
「全員起きろ!何者かが屋敷に侵入してきている!」
コーザの声は、まさに屋敷に居る全員の元に届いた。
ビビもこの声を聞いて、目が覚めたらしい。
とたんに屋敷中が騒がしくなるが、
珍しいことに、この店では避難訓練を自主的に行っていたらしく、
パニックに陥ることも無く、自分の避難するべき場所へ行く。
「ビビ!」
「コーザ!」
コーザは迷うことなく、ビビの下へ行った。
主人である、コブラにはチャカが向かうだろうし、
蔵を狙ったのだとしたら、
ペルーが容赦なく叩きのめしに行くであろうことがわかっていたからだ。
「コーザっ何が起きたの!?」
「侵入者だ。数は12〜3人ってところだな。
いいか、俺の傍を離れるなよ。」
「うんっ」
その途端、雨戸を蹴倒して3人の黒装束の男たちが部屋に侵入した。
背後で、ビビが息を呑んだのがわかる。
侵入者達の手にあるのは、明らかに刀。そして、コーザの手にあるのは木刀。
その差に侵入者たちが余裕の笑みを浮かべたように見えた。
ガッ!
刃を木刀で受け止めた鈍い音が響いた。
本来、刀は達人が使えば、木刀ごと人体を真っ二つに切り落とす。
しかし、今回はその逆。
コーザの腕は、侵入者達の刃を無効にするほどのものであったのだ。
つまり、ただの木刀であろうとも、刃を持つ武器に引けをとらないものとなる。
「ぎゃっ」
コーザと抜き合わせたものは、そのまま強く打ち払われ。よろめいて倒れた。
それを見て左から打ち込んだ者は、
いつの間にかに刀を跳ね飛ばされていた事に驚き、一瞬我を忘れた。
右から切りつけたはずの者は、自分からその刀を落とし、
その両手で顔を押さえて床をのた打ち回った。顔面を強打され、鼻の骨が砕けたのだ。
結局悲鳴は、一つしか上がらなかった。
後は、全員その木刀で頭を打たれ、声も無く気絶させられてしまったからである。
「コーザ?」
「ああ、もう大丈夫だ。しばらく気がつくことは無いだろう。」
いつの間にかに逞しくなっていった、コーザの広い背中を見て、ビビは安堵した。
彼と一緒に居られるならば、何も心配することはないのだと。
しかし、少女の願いも空しく、そう上手く事は収まらなかったが現状だった。
Next>>>
|