四
まさに、寝耳に水。
嘘つけよ。なんだ?そりゃ。つーか、どーゆーことー?
と、当時にはありえないしゃべり方で叫んでしまいそうな気分のサンジである。
まず、根古田屋襲撃事件に関して。
読んで字のごとく、一昨日根古田屋が盗賊の押し入りにあったらしい。
幸い怪我人や死人などは居なかったらしいし、
十数人の盗賊のうち六人をひっとらえたのだそうで。
うわぁい、このまま事件解決♪
……と思いきや。
なんと、捕らえられた盗賊が
「自分達の襲撃の手引きをしたのは、コーザである。」
と自白したそうだ。
あっはっは、おいおい、あんびりーばぼー。
これでも人を見る目には自信があるし、
サンジの第六感が、コーザと言う男はそんなことをする男ではないと言っている。
しかし、さらに話は発展し……
コーザをそそのかしたのは、
コーザと同じ道場で親密な関係にあるゾロであると言うのだ。
ゾロは、南町奉行をやっている割には、実に質素な生活をしている。
なんせ、元の身分が低い。
さらに、いかに能力があっても、
くだらない嫉妬によって、いじめなども絶えないらしい。
(ゾロに虐め?!なんて聞くと、鼻でハハ〜ン?と笑いたくなるが。
というか、実際ゾロも馬の毛の先ほどにも気していないが。)
だから、ちょっと金がほしくて、
コーザを丸め込んで、適当な盗賊を雇って、押しかけさせた……。
もしそれが本当ならば、その先に待っているのは失脚どころの話じゃない。
下手したら切腹だ。
だが、嘘に決まってる。
鼻で笑うどころか、へそで茶が沸き、腹がよじれて内臓破裂するっツーの。
つーか、そんなばればれの嘘ついてて恥ずかしくねぇのかって言うくらいだ。
ウソップでも、こんなくだらない嘘はつかないだろう。
……だが、悔しい事に、人々は信じたのだ。
ゾロの表面しか知らない者。ゾロを疎ましく思っている者。面白半分の者。
所詮他人の不幸は蜜の味。
いったい誰のおかげで、公平な政治が行われているとも知らずに……。
「クソッタレ!」
物に八つ当たりをすることもできずに、サンジは低い声で唸った。
八代将軍となってから、ひどい無力感を感じるようになるのはこういう時だ。
自分がいったい何のためにここにいるのか分からなくなってくる。
人々のために、幕府を改革するために
……そう思っている自分がバカバカしくなってくる。
髪の毛を掻き毟って、そのままうずくまった。
どうしようもない憤りが腹の中をぐるぐるして、不快感に吐きそうになった。
「ゾロっ」
愛しい名をつぶやきながら、
考えろ、考えろ……と、サンジは自分に言い聞かす。
今はまだ……感情を爆発させるべきところじゃない。
「よう、荒れてるな。」
やっぱ、様子を見に着てよかった。
……と、そう、背中に声をかけられて、
サンジは信じられない気持ちで振り返った。
「ゾロ!」
「その様子じゃ、全部聞いたんだな。」
ここに居るはずがないと思われていたゾロが、
苦笑しながら、サンジのすぐ隣に腰を下ろす。
そのまま手を伸ばし、がしっとサンジを捕まえて、
その広い胸の中に閉じ込めてしまった。
「おまっ、取調べを受けてるんじゃなかったのかよ!」
「ああ、ひとまず終わった。
というか、まだ盗賊の自白しか証拠がねぇからな。証拠不十分って奴さ。」
「じ、じゃぁよ」
「だが、証拠なんざ後からでもでっち上げることができる。
勝負はこっからだな。」
「……。」
「こら、そんな顔するなよ。俺が負けるとでも思ってんのか?」
「んなわけねぇ!俺はお前を信じてる。」
半ば反射的にそう怒鳴る。
「ああ。それでいい。
お前が居る限り、俺は石に噛り付いてでも傍に居るって決めたんだ。」
にぃっと、いつもの不遜な顔でゾロは笑った。
「自分の汚名は自分で返上するさ。
お前は、・・・良い子で待ってろ。」
ちゅ
「っば!!不意打ちとはきたねぇぞ!」
「ははは。じゃぁ、またな。」
額に口付けを受けて、顔を真っ赤にしたサンジに、微笑を残し。
ゾロはそのまま退城していった。
本当は、こうやって自分に合いに来る暇などなかったに違いない。
それでも、ゾロは顔を見せにやってきたのだ。
心配性な自分のために。
そして、サンジが感情のままに動いたりしないよう、釘を刺すために。
「・・・馬鹿野郎。何でもかんでも一人でやろうとしやがる。」
ゾロが去った後をいつまでも見つめながら、サンジはポツリとつぶやく。
ゾロの有能さを認めないわけではない。
きっと信じて待っていれば、ゾロは何事も無かったように、
言ったとおりの事を実行して帰ってくるだろう。
だが、わかっていても、サンジはゾロの役に立ちたかった。
いつもいつも護られてばかりで、時には自分がゾロを護ってやりたかった。
いや、むしろ「俺が護ってやらなくちゃいけねぇ」と思った。
ゾロは強いし有能だが、
こういう時上司である自分がバックアップしてやらなくちゃいけない。
それは義務であり……わがままだ。
誰かがこんなことを聞いたら、職権乱用だとか言うのかもしれないが。
「いいんだよ。権力なんつーくだらねぇ物は、こういう時にこそ使うんだ。」
そう嘯いて、サンジはにやりと笑った。
「よしっさっそく行くかぁ!
ぐっふっふ、まってろよゾロ!この俺がおとなしくしてるわけねぇっツーの!」
サンジが気合一発、腹に力をこめて拳を振り上げた瞬間。
「どこに行くのですか?」
足元からかけられるかわいい声。
「うおおおおおをををををを??!
チ、チョッパーじゃねぇかよ!久しぶりだなぁ!」
「お昼にあったばかりじゃないですか。何を慌ておいでです?」
「いやぁ〜慌ててるだなんて、そんなこたぁ全然だぜ?」
「上様。目が泳いでいらっしゃいます。」
「・・・・・・っ!!
え、えーっと。えーっとだなぁ、チョッパー、あー……。」
「・・・サンジ。」
チョッパーが、サンジを名前で呼んだ。
「サンジ。どうしても行くのか?」
その目は、臆病なチョッパーらしく、少し潤んでいた。
しかし、サンジは自分の意志を曲げる気はなく、
だからこそ本気で答える。
「ああ、行く。俺が助けてやるんだ。」
サンジの一言に、チョッパーは小さなため息をついた。
チョッパーにはサンジのすることが、なんとなくわかっていたからだ。
だてに幼い頃から一緒だったわけではない。
「…俺はサンジの事が大好きだ。
だから、サンジが外に出てるのを知るたびにすごく怖くなる。
怪我をしたらどうしよう。何か大変な目にあったらどうしようって思う。」
「チョッパー…。」
「でも、俺はゾロの事も大好きだ。
無口で無愛想でちょっと怖いけど、
サンジと同じように、ありのままの俺を見てくれた一人だからな。
それに、ゾロの友達のコーザって人も、会えばきっと俺は好きになれると思う。」
チョッパーは、溜まっていた涙をぐいっとぬぐうと、笑顔で言って見せた。
「行って来い、サンジ。少しくらいの怪我なら大丈夫だ。
俺は、ちゃんと医学も学んでいるから、治してやるぞ。
でも、・・・かならず、帰って来いよ。約束だからな!」
「っありがとうな、チョッパー!
さすがは、俺の親友だぜ!約束だ、必ず無事に帰ってくる!」
「おう!サンジがいない間、ごまかす役は俺に任せとけ。」
「それなら更に安心だな!」
いつものように、お忍びモードの服に着替えて、こっそり城から抜け出しながら、
『俺ってば、すげぇ幸せもんなんだな。』と、少しだけ涙ぐんだ。
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