参
今回のサンジの暇つぶし「コーザ探し」も。
居場所があっさり割れてしまえば後は簡単だ。
根古田屋と言う、米屋に居ることがわかったわけだからして。
堂々とそこに行けばいい。
しかし、本当に堂々と根古田屋に乗り込んで
「やぁ、ここにコーザ君って人いる?」
とか、ぶちかました日には、
後日、コーザの口から「金髪で巻き眉毛な奴が尋ねてきた」とか、
ゾロの耳に伝わって。
「てめぇ!コラ、サンジ!
浮気かこの野郎!!いい度胸してんじゃねぇか!」
とか、叱られた上に剥かれて貫かれてヒイヒイ言わされる危険性があるため。
コソコソするのは、正直気が乗らないサンジも、
今回は根古田屋の出入り口が良く見える酒屋の2階で、
ちびちびと酒を飲みながら待つことにした。
と、そこに、さっそく店の暖簾をくぐって現れた若者が一人。
「それでは、行ってまいります。」
「ああ、コーザ。頼んだよ。」
案外早く、目的の人物を見ることができたな、と思いつつ、
件のコーザと言う若者をしげしげと見つめた。
年は、18〜9と言うところだろうか。背はとても高く、六尺強はありそうだ。
そして、剣を学んでいるだけあって、いい体格をしている。
「しっかし、ウソップの言うとおりだ。無愛想な面してやがる。」
サンジは面白くなって喉の奥でクックッと笑う。
ゾロとコーザは、同じミホークの道場で腕を磨きあう仲らしいが。
それなりに認め合っているということは、
いかにお互い無口とはいえ言葉の一つや二つも交わすであろう。
無愛想で無表情の二人が、
凶悪な顔を寄せ合っていったいどんな会話をするというのであろうか。
「そ、想像するだけで笑える〜〜〜!
ついでに、ミホークのおっさんも加わったら、
い、いったいどんなことになんのか、ぎゃははははっ」
腹を抱えて笑っていると、
「失礼いたします。」と言う女の声が襖越しに聞こえた。
もちろん「レディの前では格好良くあれ、俺!」と言うのが、
モットーの一つのサンジは、瞬時に顔をきりりと引き締める。
(もっとも、襖なのだから、先ほどの馬鹿笑いは聞こえちゃっているわけで、
入った途端にきりりとした顔で迎えられても、
逆にヘタレっぷりをアピールしているだけなのだが、
サンジは気がついていない。)
そして、声の主である女が襖を丁寧に開け入ってくると、
彼女は、サンジのヘタレっぷりを見ても、見事に優しく微笑んで見せた。
「あら、楽しそうですわね。どうかいたしました?」
「あ!ナミさんのおねぇさま!この部屋を使わせてくれてありがとうございますぅ〜♪」
そう、入ってきたのは、ナミの姉でノジコと言う女だ。
彼女は、ここの店の女主人なのである。
そして、うふふ、と笑うと。手馴れた風に、サンジに酌をする。
「『サンジさん』で、よろしいのよね。
ナミの知り合いだから、どんな方かと思ったら。
こんなにステキな方で、びっくりしたわ。」
「何をおっしゃいますか。俺の魅力はさておき。(否定はしない)
お姉様の御髪は太陽と見間違えんばかりに輝き、瞳は清流のように澄んでいて、
その唇はかの薔薇の花のごとく瑞々しい!
そして、そのすべてを収めた美しさは、今神をも超え……!!」
「あら、お上手。でも、私の事はノジコと呼んでくださいな。」
「……あぁ、はい。わかりましたノジコさん。」
せっかく渾身の力を込めての口説き文句も、
あっさり途中でぶちぎるあたり、さすがナミの姉。
ちなみに、ナミにも毎回同じようなことをしているが、あんまりしつこくすると
「ごめんねサンジ君。褒めてくれるのは嬉しいけど。
このままだと『ルフィが焼もち』やいちゃって、
『夜が大変』だから、そろそろやめてくれる?」
などと、笑顔で言われてMAXまで凹んだものである。
そりゃぁ、もちろんルフィとナミが夫婦であることなど百も承知で、
褒めちぎっているのだが。
そういう関係を目前に出されるとやっぱり凹むのだ。
(あ、ちなみにゾロとナミさんは別なのでそのつもりで。−サンジ談)
うっかりアンニュイな気持ちになってしまい、
会話が止まってしまったことに気がついたサンジは。
女性と一緒の時にそれではいけないと、ついでにコーザの話題でも振ることにした。
店が向かいなので、この店にも何度か出入りがありそうだったからだ。
すると、ノジコは商売ではない笑顔を向けて、
「ちょっと愛想が無いけど。
若いのに、とても働き者で、頭も良くて、腕っ節も強くて。
それにいい男ってんだから、亭主にするには最高の人ですよ。」
と、こんな具合に手放しで褒める。
「サンジさんがここにいらしたのは、コーザさん目当て?」
「ははは、俺の友人がやけに褒めるもんで、
どんな奴かいっぺん見てみたくなったんですよ。」
「じゃぁ、そのお友達は人を見る目があるんだわ、
だってコーザさんは本当にいい人ですもの。」
「いやぁ、と言うよりも似たもの同士ですからね。
無口、無愛想、無表情の中で、何か通じるものでもあったのかもしれません。」
「あらまぁ、それなら今度は私がサンジさんのお友達のほうを見てみたいわ。
コーザさんと並べてみたら、どうなることかしら。」
「でしょ?でしょ?さっきはそれを想像して、つい笑っちゃったんですよ〜。」
しかし、ノジコはふ…と浮かない顔をした。
「どうかしましたか?」
「……いえね、コーザさん。実は、最近良くない人たちに絡まれているみたい。」
「よくないって、ゴロツキとかですか?でも、腕の立つ男ならそれくらい……。」
「もちろん、コーザさんならゴロツキなんて物の数じゃないでしょう。
でも、喧嘩両成敗だから、下手に手を出すとコーザさんも捕まっちまうでしょう?
だから、コーザさんにできるのは逃げることだけ。
私にできることは、ほんのちょっとの時間かくまってあげることだけです。」
なんでも、根古田屋の娘から何かあったら助けてあげてくれと、頼まれたのだとか。
「それで、最近はいつも一人で仕事をしているんですよ。
巻き込まれると危ないからってね。」
「許せませんね。そのゴロツキは、いったいなんで彼を目の敵にするのか……」
「それが、よくわからなくて……。
なんやかやと文句をつけては殴りかかるみたいですよ。
十手持ちや、同心の親分さんに言ってみても、
実際に被害があるわけじゃないから何にもしてくれやしない。」
ノジコは、眉間にしわを寄せ、
何かに対しての憤りを感じていたようであったが、それも一瞬だけ。
またすぐににっこりと笑うと、サンジの杯に酒を注いだ。
「でも、他人を頼ったってしょうがありませよね。
それぞれが、自分のできる範疇で、頑張っていかなくっちゃいけないんですから。」
「……そうですよね。」
サンジも微笑む。
そして、ノジコが出て行った後、
何とはなしに根古田屋の暖簾を眺めながら、
サンジはぼんやりと考え事をしていた。
なんとなく、首筋の辺りがぞくぞくする。
これは、恐らく第6感ともいえるもの。
「……なーんか、いやな予感がしやがるなぁ。」
ふと、クロコダイルの嫌な笑みを思い出した。
今の寒気と、クロコダイルがサンジを見る目つきとが似ている気がした。
そして、いつの世であっても、悪い予感と言うのはたいてい外れない。
その嫌な予感が現実のものになったのは、それから数日後。
「サンジ!サンジ大変だ!」
城の廊下を小さな体で走ってくるチョッパーの姿を確認し、
ノジコの店で感じた、嫌な予感が蘇った。
普段きっちりとした言葉でしゃべるチョッパーが、
いきなりフレンドリーな言葉でしゃべっているのも理由のひとつ。
「ゾロがっゾロが!」
「どうしたチョッパー!落ち着いてゆっくり言ってみろ。
……ゾロが、どうした?」
チョッパーはつぶらな瞳に涙をためながら、震えた声で言った。
「ゾロが。根古田屋襲撃事件の黒幕なんじゃないかって疑われて。
今、取調べを受けてるんだ!!」
「……はぁ??」
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