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あのなんとも言葉に言い表せない出会いを、
幸運と取るか、不運と取るか……。
空気が澄んでいた。
馬鹿らしいくらいの晴天だ。
風も心地いい程度に吹いてるし、昼寝日和って奴だな。
気が済むまでトレーニングを繰り返し、
錘を片付けたら、そのままごろりと横になった。
空の青は高くて、雲は白く、ほんの少しの影は心地よさを生んだ。
太陽がまぶしくて目を瞑ったが、まぶたの裏は黄金色のままだった。
こういう時は、あいつの夢でも見れるといい。
金で青で黒で白な感じでぐるぐる渦巻いてんのが居る。
それが俺んとっての、あいつを見た第一印象ってやつだった。
見たまんまか?まぁいいだろうがよ、とにかくきれぇだなって思った。
ナミに言わせると、ハニーブロンドって言う髪の色に、
俺の故郷では一切お目にかかったことのねぇ青い瞳。
んで、よく暑苦しくねぇなぁってほどきっちり着こなした黒のスーツ。
ちこっとだけ見えてる肌は女なんかよりずっと白い。
おまけのワンポイントって感じで、くるりと渦を巻いた眉毛は、ギャグなのか?
いや、しらねぇけど。
とにかく、ガラがわりぃのは重々承知だが、やけにきれぇなもんだから。
まずこの海ん中で生きていけるのか?こいつぁ。
と、俺は思った。
優しそうな奴だ、と感じたからだ。
優しさってのは、時に己を死に至らしめる。
それから、あいつが俺に言ってきた野望に関しての
「馬鹿じゃねぇの?」なんて台詞も、
本音は別のところにありそうな感じがしたから、別に腹もたたなかった。
ただ、からかって出た言葉じゃないのはわかったから、俺はあいつに本音を返した。
「俺を馬鹿と呼んでいいのは、それを決めた俺だけだ。」
その後、そいつは何も言わなかった。
ただ、ほんの一瞬だけ、拳が震えたのがわかった。
俺が鷹の目と戦って惨敗したときに、遠くから聞こえてきた
「簡単だろ??野望を捨てることくらい!」って怒鳴り声で。
ああ、こいつは強えぇ奴だと直感した。
ルフィが欲しがってたし、多分こいつと俺は仲間になるんだろうと思った。
腹に一本くくった野望を押し殺すほどに、大事なもんがこいつにはある。
だが、その押さえ込む力が強ければ強いほど、
こいつの野望は火を噴き胸を焦がしてる。
早く行きてぇ、飛び出してぇ。
きっとあいつは、そればっかり考えてる。
力の限り、限界まで引き絞られた弓につがえられた矢そのものだ。
後はきっかけ。
それが外れれば、こいつは一直線に夢まで飛んでいこうとするだろう。
そのきっかけをくれてやるのは、俺の役目じゃねぇんだろうけど・・・・・。
ほんの少し、胸がちりちりした。
だが、悪くねぇ出会いだと思った。
ぼんやりと目をあけると、あんなに青かった空は、いまや血の色をしていた。
なんか、縁起でもねぇな。逢魔が刻って奴か。
もう一度目を閉じて寝返りを打つと、
寝る前までは金色だった視界が、今は真っ赤なままで。
何十人もの敵を斬って捨てたような光景を思い出す。
むせ返るような鉄の匂い、そよとも吹かない呼吸を止めてしまった風。
刀を伝ってべっとりと付着した人の脂。
ただ、己の血が沸騰したような熱さが全身を駆け巡って、
また一歩高みに近づいたと思えば、それは快感に変わった。
よくわかんねぇな、と思う。
俺は常に、強くなれる瞬間を追い求めている。今もそうだ。
だが、それにはああいった赤く汚れた光景ってのがつきもんだ。
そりゃぁ、別にああいったもんが嫌だとか思ったことはねぇが、それなのに・・・
あいつのようなきれぇな色が欲しい自分ってのも居る。
ごすっ!!!
ぐふっ・・・!!ち、ちょっと、まて!
「て、てめぇ。ゲホッいきなりなにしやがんだ!こんクソコックのぐるぐる眉毛!」
今のはちょっと効いた、マジ鳩尾に入った。
考え事していたとはいえ、ぬかったぜ畜生!
「はぁ??てめぇが、むかつくからとりあえず蹴りいれてみただけだろうが。
何がおかしい!」
「おかしいだろうが!!」
意味もなく蹴りつけてきておかしいと思ってねぇのか?!こいつはよ!!
「つーかメシだ。起きねぇてめぇが悪りぃんだよ!」
「だったら先にそれを言いやがれーーーーーーーー!!!!」
奴が俺に蹴りつけ、俺はそれを刀のつばで受け止める。
毎日好例の喧嘩勃発だ。
多分、今日もまたナミが怒鳴り込んでくるまで続くんだろう。
思いっきりあいつを殴りつけながら、
腹のそこから罵声を張り上げながら言うことではないかもしれないが。
実は俺は、こいつとの喧嘩は嫌いじゃない。いや、嫌いじゃなかった。
もともと、村を出てからと言うもの、
同世代との付き合いって言うのはあんまりなかったほうだし、
そういうのと馬鹿みてぇにいろいろ張り合ったり、
小突き会ったり、笑いあったり。
そんな経験は子供のころから考えりゃ本当に久しぶりの感覚だった。
だが、最近のあいつは何か悩みながら俺につっかかってくる。
考え事しならがやるもんだから、こいつの隙がよく見える。
ちげぇだろ?喧嘩ってのはよ、本気でやらなくちゃ楽しくねぇだろうがよ。
それなのに、あいつは俺に喧嘩を売ってくるのをやめねぇ。
いや、喧嘩って言うより八つ当たりに近いのかも知れねぇな。
腹ん中にたまったどうしようもねぇどろどろしたもんを吐き出したくて、
でも胃液が出るばっかりでぜんぜん吐き気はおさまらねぇ・・・みてぇな。
そんな感覚。
まぁ、わからねぇでもねぇけど。
そういった八つ当たりに付き合えるのは俺くらいなもんだろ。
ウソップや女どもは除外するとして、チョッパーは臆病だから駄目だし。
ルフィは・・・あいつは人の心を見抜く。
言ってすっきりしてぇけど、誰にも言えねぇ。
そんな悩みを抱えてる人間の八つ当たりにはまず向かねぇ相手だよな。
俺は・・・俺は、あいつが悩んでるところまではわかるが
・・・そこから先に踏み込んだことはねぇ。
だってそうだろ?俺がどの面して言ってやればいいってんだ。
俺はお前ぇに惚れてる。だから、悩みがあるなら言って欲しい。
………だぁ!そうだよ!!俺はこいつに惚れちまってんだよ!
どうせ、ホモだよ!悪かったな畜生!!!
おかしいなと思ったのは、グランドラインに入ってすぐだった。
花街に入ればそれなりにあった性欲が一気に失せちまったんだ。
最初は、おいおいこの年でインポかよって情けなく思ったもんだが。
そうじゃなかった。
サンジのうなじとか、鎖骨とか、
まぁとにかく何かとあれば、色っぺぇなとか思いつつ視線で追ってる自分が居て。
それがだんだんエスカレートしていって、
舐めてぇ、齧りつきてぇ、突っ込みてぇとかまで思考がイッちまって、
さらにものの見事に勃起したときには、さすがの俺も観念した。
だってよ、あいつが女みてぇになよなよしてんならともかく、
どっからどう見ても男の体してんのに、そう思う気持ちはかわらねぇんでやんの。
股間に同じイツモツ持ってるっつーのに、
逆に弄ってイカせてやりてぇ、イッた時のあいつのツラはどんなもんなんだろうな
・・・とか、もんもん考え込んでんだよ、俺ぁよ。
ともかくだ。
そんなこんなで、あいつが苦しんでるなら何とかしてやりてぇとは思う。
ってか、いっそのこと、俺の胸で泣け!!
とか言ってやりてぇとか思っちまってる!
だけどよ!んな事いったら、まず普通に蹴りが飛んでくるだろうがよ!
いや、そんならまだいいさ。
空笑いみたいの浮かべながら
「へぇ〜お前、ホモだったのかよ。
いや、別に平気だぜ。
俺、そういうのに偏見もたねぇようにしてっからさ。
ホラ、海にはそういうの結構多いし。」
とか、いわれたら立ち直れねぇじゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
つーか、偏見もたねぇように『してる』ってあたり、十分偏見持ってんじゃねぇか!
違うんだサンジ!
俺はお前に出会うまでは男に欲情したことなんて誓って一度もねぇんだ!
普通に女で十分だったんだよ……って、
これは俺の空想か。くそっ冷や汗出ちまった。
「あんたたち!いいかげんにしなさい!!」
ぼきっ!べこっ!
女の手から生まれる音か?
と聞きたくなりそうな音を立てるほどのナミの一撃を頭に受けて、
俺たちの喧嘩はまた幕を閉じた。
その後、あいつが改めて温めてくれた夕飯をガッツリ食って。
(今日のはチンジャオロースだった。もちろん美味かった。)
その後、見張り台に立つ時間まで、メインマストに寄りかかり、
前方を眺めながら甲板でのんびりしてた。
カチャリと扉の開く音がして、足音がそのまま後甲板に続いた。
多分、明日の仕込を終えたサンジが最後の一服でもしに行ったんだろ。
なぁ、お前ぇ何悩んでんだよ?
やっぱ……女の事か?ナミの事か?ロビンの事か?
ビビの奴に惚れてたのか?
それとも、毎回島に下りるたんびにナンパしまくってるみたいだしよ。
振られて落ち込んでんのかな?
それとも料理の事かよ。なんか、スランプにでも陥ってんのか?
つーかさ、お前ぇ最近一人で泣いてもいるだろ。知ってるぜ?
泣くほど何が辛ぇんだよ。
言ってくれよ、教えてくれよ。
俺にできる事なんざたいしたこっちゃねぇだろうけど。
ひょっとしたら、聞かなきゃよかったってな内容かも知れねぇけど。
それでも、お前ぇの役に立ちてぇのに。
……何をやってんだろうな。俺って奴はよ。
今の全部、口に出せばいいだろうが。
あいつに嫌われんのがそんなに怖ええかよ。
情けねぇ。
俺は自分のあまりの情けなさに手の中に顔をうずめた。
その時だった。
『ぞろぉ……』
声が聞こえた。
あまりのことに驚いて思わずがばっと立ち上がっちまった。
今の……サンジの声だったか?
脳みそは「や、ちげぇだろ。」と言いたがっているが、
俺の本能は「間違いねぇ!」と言っている。
サンジが、俺の名前を呼んで泣いている??
いてもたっても居られずに、そのまま後甲板に向かった。
サンジは、手すりにもたれながら、蹲っていた。
時々ずひって鼻を流しながら膝を抱えている。
やっぱ、また泣いてんのかよ。
サンジは一旦俺を見上げようと顔を上げたが、
途中でまた視線を膝に戻してしまった。
だが、そのほうが良いかも知れねぇ。
なんつーかその、俺も微妙な顔をしていたと思うから。
やっぱその、かっこ悪りぃ顔なんか見られたくねぇだろ?
しばらく、耐えがたい沈黙が俺たちを包んだ。
いつもならサンジがマシンガントークって感じで
がんがん物を言ってくるもんだからこうなることはあんまり無かったが、
今回ばかりはこいつもだんまりを決め込んだようだ。
そりゃそうだよな、こいつ今泣いてんだし。
ここはひとつ俺がなんか気のいい事を……
「何やってんだてめーは。亀の真似か?」
……俺はアホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
慰めようとしてんだろーが!
何でいつもみてぇにしかしぇべれねぇんだよこの口はよぉぉぉ!!
「うっせー黙れ。
おめーと違って繊細なオレ様の心は、いまメランコリックな感じに浸ってんだよ。
わかったらとっとと去れ。行っちまえ。消えろ。
そして、クソして寝ろ。」
ああ、ほらよ。又いじけちまった。ちげぇんだよ、サンジ。
だからな?その。
う、そんな犬でも追っ払うみてぇな手つきは止めてくれ。
なにげに傷つく。
「寝れるか、俺は今夜見張りだ。」
「あらそー、それは失礼いたしました。んじゃ、頑張ってケツかりませ。」
クソ。どうすりゃいいんだ。ため息ばっかしか出てこねぇ。
やっぱこいつは、俺とこうやってしゃべんのも嫌なのか?
だから追っ払おうとしてんのか。
あ、そうだよ!
「腹、減った。」
これだ!こいつは少なくとも、腹減ってる人間に対しては無碍にあつかわねぇ。
これで少し落ち着いてしゃべれんだろ。
「うえっ」
っえ!!(汗)
「うぐー!うえっうぐっぶえぇ〜。」
うあ、うわあああああ、また泣いたぁぁぁぁぁぁ!!!!
泣くなっ泣くなってサンジ!俺なんか悪い事したか??
「わがったっつーんだよ。作ってやんよ。酒はバーボンでいいか?グゾ。っく。
適当なもん作って見張り台にもってってやっがら、っふぐ。
さっさとこっから消えろ!見張り台に登れ!天まで登れ!うぐうううう〜〜〜。」
なんなんだよ!何で泣くんだよ!わかんねぇ!
俺だけは、飯つくんのも嫌なのか??それほどまでに嫌われてんのかよ俺ぁ……。
やべぇ、すげー悲しくなってきやがった。俺まで泣きそうだ。
「そうか、じゃ頼んだ。」
搾り出すようにはき捨てて、顔を手で覆った状態で逃げ出した。
そうだ、俺は逃げ出したんだ。
頭ん中はぐるぐる混乱したままで、
何がどうしたとか、どうあるべきだとかそんなもんがすっぱ抜けた。
ただ、サンジに言われたとおり見張り台に登った。
さすがに高い場所に登ると風がつめてぇ。
だが悪いもんじゃねぇと思った。これで少しは、頭が冷えればいいと思った。
「おいクラ、クソ剣士。夜食だ。
ほっぺた落として出血死する勢いで味わいやがれボケ。」
しばらくしたらサンジがバスケットに飯を詰めて持ってきてくれた。
今度は泣いていないようだったからほっとした。
「ああ、すまねぇ。」
何でかサンジを泣かせちまって、正直食欲なんざ全然なかったんだが。
さすがサンジだよな。すげぇ、いい匂いだ。
匂いに誘われるまま、一口食べると。やっぱりうめぇ。
さっきあれだけ泣いてたってのに、
ぱっとこれだけのものを作っちまえるんだから。やっぱりお前ぇはすげぇよ。
それから、俺がうっかり毛布を持ってこなかったことに腹を立て、
サンジは一旦男部屋まで戻っていった。
こいつは、なんだかんだ言って面倒見がいいからな。
誰にでもこういうことをするんだなって思うと。
理不尽な嫉妬で、少し苛立った。
やっぱり俺は、まだまだ修行がたりねぇ。
毛布を持って戻ってきたサンジに
「メシのほうは食い終わったのか?」
と、聞かれて。
正直俺は焦った。
理由はまだわからねぇけど、
さっきこいつが泣いた原因が俺なら、やっぱり謝っておきたかった。
けど、理由もわからずにただ謝ったって意味がねぇ。
「おう。……美味かった。」
くそ、このままじゃ又サンジが行っちまう。
なんかこー引き止める言葉はねぇもんか。
すげぇ自分が情けねぇ。なんで、いい感じの言葉の一つも出てこねぇんだ。
当たり前の言葉しかでてこねぇ。
案の定、サンジは『あたりめーだろ。』って言葉で締めくくった。
そうだよな、こんなんルフィだって誰だってみんな言ってる。
と、ポロリとサンジのその口からタバコが落ちた。
「おい、タバコ落ちたぞ。あぶねーじゃねぇか。」
拾い上げて奴の口元に持っていったが、奴は眼をまん丸にしてただ俺を見てる。
「今、なんつったよお前。」
なんか……、凶悪な顔になりつつあるんだが??
「いや、だからタバコが…」
「違げぇよ!その前だよ!」
ほとんど絶叫だ。
おいおい、他のやつら、起きて来るんじゃねぇのか?
また俺は何か墓穴でも掘ったんだろうか。や、でも思いうかばねぇし。
「……ごちそーさん?」
「違げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
まるで駄々こねるみたいに叫ぶもんで、
俺もどうして良いのかわかんなくてあせった。
ただ、このタバコは用無しみたいだったから、
手をやけどする前に火を消して海に投げたが。
振り返ってさらに俺は驚いた。
「もっがい言えよグゾ剣士!」
サンジは又泣いていた。
俺はもう、わけがわかんなくなって今度こそ叫び返した。
「な、何で泣くんだ!さっきもそうだしよ!」
「うっぜー!いいからもっがい言えー!」
したら、ぺぺぺーと唾を飛ばしあう感じで叫び返された。
こいつが言って欲しいことって言ったら、やっぱ料理のことか?
美味いって一言か?
俺が言っても、こいつは喜んでくれるんだろうか。
「美味ぇよ。」
サンジの目をじっと見て。俺は言った。
「俺ァ今までメシなんざ味わって食ったことがねぇ。食えりゃ良かった。
そうすりゃ明日も生きていける。」
こんな事言ったら、多分こいつは怒るだろうから、俺は言わなかった。
だが、サンジは言えといった。
料理に関して、俺がどう思っているのか、正直に言えって事だろ?
だから本音を言った。
「だが、お前ぇの料理は少し違うな。」
黒手拭で、サンジの涙をそっと拭いながら言葉を続ける。
「上手く言えねぇけど。
お前ぇのメシ食いだしてから傷の治りようが早い。
寝ぼけることが少なくなってきて、敵と対峙してる時もやけに頭がさえる。」
俺は、お前に会って。初めてメシってもんの大切さを知った。
「最近思うぜ。
俺の野望までの道は、確かにお前ぇの手でも作られてんだなってよ。」
ほんのつい最近まで。
大剣豪になるための夢は、俺とくいなと二人だけのものだった。
だが、ルフィに会って、ナミに会って、ウソップに会って、
……そしてこいつに出会って。
この夢は、二人だけのものじゃなくなった。
愛しい馬鹿野郎共が一緒じゃないと、この夢は意味がねぇ。
俺は、仲間と共に、野望までの道のりを歩いて行きてぇ。
そして……。
俺が、大剣豪になった時。
お前に、隣に居て欲しいんだ。
「どわ!お前ぇ、何してんだ!!」
ふらぁっ……っと、サンジの身体が揺れたかと思ったら、
いきなり縄梯子から足を踏み外しやがった!
慌てて腕を引っ掴み、見張り台に引きずり込む。
「ったく、俺はおめぇが何考えてんだかこれっぽっちもわからねぇ。」
サンジは、いまだに泣き止まずにいた。
その、青い目が溶けちまうんじゃねぇかって言うくらい。
ぽろぽろと涙をこぼし続けている。
酷く胸が痛んだ。
「なぁ。お前ぇ、何で泣いてんだよ。
泣くんじゃねぇよ。俺ぁどうしてやればいいのかわかんねぇよ。」
思ったよりも嫌がられなかったから、
こんどは指で止まらない涙を拭ってやった。
「普段はあんなに生意気なくせに、毎夜毎夜メソメソしやがって。
女にでも振られたのかと思ってほっといたら、
なんでか今夜に限って俺の事呼ぶし。」
嫌いなのか……それとも、少しは好意を持ってもらえているのか……。
「なぁ、お前ぇはそんなに俺のことが嫌いか?」
お前は、俺のこと、どう思ってる?
「お前……は?」
「は?」
「お前は、俺のこと、嫌いじゃ、なかったのかよ。」
ひっくひっくしゃくりあげながらサンジは言った。
……待て。
ちょっと待て。こいつ今なんて言った?
『お前は』『俺のこと』『嫌いじゃ』『無かったのかよ』だよな?
どういう意味だ?おい。文法的に何を表してんだ??
いや、そんなしちめんどくせー事なんざ知らねぇけどよ。
つまり言い換えると
『サンジは、俺がサンジの事を嫌いだと思っていた。』だよな?
誤解だ。
誤解なのだが、今問題するべきことはそれじゃねぇような気がする。
問題なのは……なんで、俺がサンジの事が嫌いだと、
こいつが泣かなくちゃいけないのか、って事……だよな?多分。
……て、事はよ。
なぁ、なぁサンジ。
俺がお前のこと嫌いだと思ってたから泣いたのか?
悲しいって気持ちになったのか?
もし、そうなんだとしたらよ。
俺と、……一緒なのか?
「お、お前ぇもまさか……」
気がついたら俺は、サンジの身体を腕の中に閉じ込めていた。
すげぇあったけぇ。いい匂いがする。
ってぇ、待てよ俺!途中経過を無視ぶっこくな!
まずは確認だろうが!
改めてサンジの顔を見ると、
そりゃもう、俺を殺す気かってくらい、色っぺぇ顔をしていやがった。
このまんまじゃ、心臓がぶっ壊れる。
どんな鍛錬をしようが、どんな激しい戦闘をこなそうが、
ここまで心臓がすげぇ勢いで脈打ってんのは、生まれて初めてだ。
落ち着こうと思ったが結局無駄に終わった。
逆に「落ち着けるかぁぁぁぁぁぁ!!!」と、自分自身に突っ込んだだけだ。
サンジは、相変わらず潤んだ目で俺を見てて、
ほうとひとつため息をつくと俺の肩口に頭を預けてくる。
やべぇよサンジ。お前ぇ可愛いすぎだ!
多分俺の勘違いなんだろうってことはわかってる。
わかってはいるが、
サンジのほんの少しだけ開いた唇が、
ちらりと見えるピンク色の舌が、
まるで「キスしてくれ」ってねだってるように見えちまって……。
万が一抵抗されても、聞く気なんざさらさらなかったが。
一応「嫌なら抵抗しろよ」と、お約束の一言をかまし。
とにかく、こいつの唇を塞だ。
サンジとのキスは、想像してた通りにすげぇ美味くって気持ちよかった。
本人の意思も確かめねぇでこれはまずいだろ、とは思ったが。
どうやっても離せなかった。
ただ、唇を合わせるだけじゃ我慢できなくなって、
舌を差し込んでその中を存分に味わった。
うめぇ。
脳の奥が痺れる様な感じがする。
思いっきり抱きしめて、犬みてぇにあいつの口ん中嘗め回して……
!!!!!!
や、やべぇ!!今、マジで理性飛んでた!!
思う存分、サンジの身体を嘗め尽くし、撫でて、噛んで、扱いて……などと、
一通りやって、俺ははたりと我に帰った。
つーか、俺まだ言ってねぇし!(汗)
サンジは……遠まわしではあったが俺に言ってくれたのに、
俺だけ言わないなんて卑怯じゃねぇかよ。
それに、俺が何も言わなかったから、これだけこじれたんだろうしな。
反省だ。これからはちゃんと言う!
いいか!まずは深呼吸だ深呼吸!すーはーすーはー。
サンジの身体をこっちに向けて、腹にぐっと力を入れて言った。
「愛してるぜ!」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!はずいぃぃぃぃぃぃぃ!!!
にあわねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
畜生!顔が熱ぃ!!
一人、バカみてぇにおたついていたら、
ふと、サンジが俺を見て笑った。
「ぞろぉ。俺……おめぇの事好きだぁ……。」
ぷちん。
拝啓。
故郷の親父にお袋様。
ロロノア家はあんたたちの代で終わりだ。すまねぇっ!
ガバッと音がする勢いでシャツとハラマキを脱いで、パンと手を合わせた。
「いただきます!」
俺はこいつと幸せになります!!
その晩、俺は珍しく居眠りをしなかった。
もったいなくって、寝てなんていられるかっつー感じだな。
ぐっすりと俺の腕の中で眠るサンジを見て、
やっぱ、きれぇだなって思った。
こいつの手はきれぇだ。人を生かす手だ、命をつなぐ手だ。
そして、心がきれぇだ。
自分が傷ついても、誰かを守ろうとするそれは、そうそうできるもんじゃねぇ。
少なくとも、俺には真似ができねぇや。
だからかな、欲しいって思っちまったのは。
ああ、でも。きれぇだから手に入れて汚してぇなんて考えてるわけじゃねぇぞ。
……そりゃまぁ、セックスの時とかは、
俺好みに染めてみてぇよなぁってのはあるけどよ。
そうじゃなくて・・・こいつがその綺麗さ故に己を傷つけるなら。
俺はこいつ自身から守ってやりてぇと思うんだ。
こいつの代わりに血を浴びて、
こいつの代わりに、こいつの手からの傷を受けてやりてぇ。
なんて、こんなこと言ったら怒るだろうな。
俺はそんなにやわじゃねぇってよ。
そりゃ俺だってわかってるさ、
最初にお前に惚れたのは、お前が強いってわかったからだ。
お前が強いのは重々承知してる。
でも、だからこそ守りてぇんだよ……って言ったら、
意味わかんねぇよって帰ってきそうだな。(w
なぁサンジ。俺は、お前の為に何でもしてやりてぇんだよ。
ホント、それだけなんだ。
夜が明けて。
さっきまであれほど可愛い寝顔をさらしてたっつーのに、
ケツがイテーだの、朝飯の用意があるんだからさっさとどけだの、
可愛くないことを言うサンジを、無理やり腕の中に閉じ込めた。
心行くまで小ぶりの頭を撫でてやって、
時々尻も撫でてやって、
ただ、抱きしめて、キスをして。
とにかく、ナミが見張り台に怒鳴り込んできて、
サンジがぶちぎれて、思いっきり蹴り飛ばされるまで堪能した。
サンジの蹴りを受けて、見事な放物線を描きながら俺は思う。
今日も空気が澄んでいる。
馬鹿らしいくらいの晴天だ。
風も心地いい程度に吹いてるし、昼寝日和って奴だな。
きっと、今日からは、微笑んだサンジの夢が見れるだろう。
あのなんとも言葉にしがたい出会いを幸運と取るか、不運と取るか。
そんなの考えるまでもねぇ。
俺たちは最高に幸せだ!
な、サンジv
<<<サンジサイド
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